役員の任期は何年にすべき?
~会社設立・登記における「ちょうどいい」任期の考え方~
株式会社を設立するとき、あるいは役員変更登記を行うときに、よくいただくご相談のひとつが「役員の任期を何年に設定すればよいか?」というご質問です。
実は、この「役員の任期」は会社法で一定の上限が定められているものの、会社の実情に合わせて柔軟に設定することが可能です。しかし、安易に決めてしまうと、あとで「登記の手続きが面倒」「任期満了を忘れてしまった」などの問題が発生することも。今回は、役員の任期を何年にすべきか、判断のポイントを司法書士の視点からご紹介します。
■ 会社法が定める「役員任期」の基本ルール
株式会社の取締役の任期は、原則として2年以内とされています(会社法332条)。ただし、非公開会社(※)の場合、定款で定めることにより、最長10年まで延長することが可能です。
(※)「非公開会社」とは、株式に譲渡制限が付いている会社を指します。一般的な中小企業の多くはこれに該当します。
一方、監査役の任期は原則4年以内ですが、同様に非公開会社であれば最長10年まで延長可能です。
■ 任期を短くするメリット・デメリット
メリット:
- 定期的に役員構成を見直す機会ができる
- 外部出資者や株主の関与がある場合、ガバナンス強化につながる
デメリット:
- 任期満了ごとに登記が必要になり、登記費用(登録免許税1万円〜)と司法書士報酬がかかる
- 任期を忘れて「変更登記の怠り」による過料(最大100万円)のリスクがある
■ 任期を長くするメリット・デメリット
メリット:
- 任期満了による登記手続きの頻度が減る
- 手続き・費用の面で負担が軽減される
デメリット:
- 役員の再任や交代の機会が少なくなる
- 任期途中の役員を解任させた場合、損害賠償請求のリスクがある
■ 実際、何年にするのがいいのか?
【オーナー社長一人の小規模事業会社・資産管理会社】
おすすめの任期:5年〜10年
・代表者と株主が同一である場合が多く、社内ガバナンスの必要性も低いため、長めの任期でも問題が起きにくいケースです。
・10年の任期にすることで、登記手続きの手間を最小限とすることができますが、任期満了の管理を忘れるリスクには注意が必要です。
→ 長期任期を選ぶ場合は、司法書士との連携で任期の管理体制・リマインドを整えることをおすすめします。
【役員が複数名いる中・大規模事業会社】
おすすめの任期:2年〜5年
・役員構成の変更が一定期間で必要となる可能性があるため、2年〜5年程度を基本にする会社が多いです。
・社内の運営体制が安定しており、かつ登記負担を軽くしたい場合は、10年任期も選択肢となります。
・ただし、役員交代のタイミングや内部統制の運用も見据え、定期的な見直しが重要です。
→ 経営体制の見直しと手続きコストのバランスをとりながら、任期の長さを検討しましょう。
【上場企業、上場を目指す企業、外部投資を受けている企業】
おすすめの任期:1年〜2年
・投資家や株主からの監視機能、ガバナンス強化の観点から、短期任期(1~2年)が一般的です。
・外部からの信頼を得る意味でも、定期的な役員選任と登記が求められます。
・手続きが毎年発生することになりますが、上場準備企業やVCの関与があるスタートアップでは、むしろ必須の体制といえます。
→ ガバナンスやコンプライアンス体制と一体で設計することが大切です。
■ 司法書士のアドバイス
任期の設定に「正解」はありませんが、会社の実態や将来の事業展開、ガバナンスの必要性に応じて慎重に決めるべきです。
たとえば、家族経営であまり役員の入れ替えがない場合には5~10年とするのが現実的でしょう。一方で、複数株主が関与するようなスタートアップなどでは、短期任期で適宜見直す体制が望ましいこともあります。
なお、任期満了による役員変更登記を怠ると過料が課される可能性がありますので、任期の管理と定期的な見直しも大切です。
ご不安な場合は、定款の見直しや登記スケジュールの管理まで含めて、当事務所までお気軽にご相談ください。
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