シンガポールは、世界的に見ても法人税率が飛び抜けて低く(2025年7月現在で原則、17%)と、優れた配当課税制度により、世界中の企業から注目を集めています。
(なお、2025年現在の日本の法人税率は、原則として23.2%です)
またシンガポールはアジア諸国の中で、極めて体制や治安が安定しているため、多くの企業がアジア市場進出の拠点としてシンガポール現地法人を設立する傾向が強まっています。
日本国内の企業でも、初めての海外展開先としてシンガポールを選ぶケースは珍しくありません。
国内の取引であっても、取引先の母体がシンガポール法人であることも増えてきました。
取引先の信用調査などにあたっては、まずは取引先会社の登記簿謄本を取得することが多いですが、対象がシンガポール法人の場合、現地の登記簿の取得が必要になることもあります。
今回は、シンガポールの法人登記簿制度について、司法書士の視点から解説していきます。
シンガポールの法人登記制度
シンガポールへの外国企業の進出形態としては、以下の3つがあります。
① 現地法人(Company)
② 支店(Branch)
③ 駐在員事務所(Representative Office)
このうち、法人格が認められる「現地法人(Company)」が一般的に選ばれています。
日本における会社設立・登記については法務省傘下の法務局の業務ですが、シンガポールにおいては、会計企業規制庁(Accounting and Corporate Regulatory Authority:ACRA)が設立登記を管轄しています。
設立登記はACRAに対して、定款などを添えてオンラインで申請し、審査が完了すると、「会社設立証明書(Certificate Confirming Incorporation of Company)」の取得が可能になります。
また、ACRAのオンラインサービス「BizFile」に法人の情報が登録され、手数料を払えばシンガポール国内外を問わず、誰でも登録されたシンガポール法人の情報を取得・閲覧することができます。
この「Bizfile」を通じたシンガポール法人の登記簿謄本の取得手続きについて、以下でより詳しく解説します。
「Bizfile」で取得できる書類と、日本の登記情報との違い
「Bizfile」から取得できる証明書については、完全電子化がされており、以下のように書類の末尾にACRAの電子署名と個別番号のQRコードが付与されています。
電子データの状態で強い証明力を要するため、基本的には書面の取得は不要で、電子データのみで各種機関への証明が可能です。

日本においてはインターネットで誰でも「登記情報」のPDFファイルを取得することができますが、登記情報には電子署名等がなく証明力に欠けるため、政府機関や銀行に対して証明するには、書面の「履歴事項全部証明書(登記簿謄本)」を提出する必要があります。
この点、電子データのみで証明力を有するシンガポールのBizfile制度は日本よりも優れていると言えるでしょう。
※なお、Bizfile証明書へのACRAの電子署名付与導入により、ACRAの印章が付与された書面の証明書である「Business Profile with Certificate of Production(印章付紙証明書)」は2023年3月4日をもって廃止されました。
Bizfileの種類
「Bizfile」から取得できる証明書には大きく分けて、
- プロフィール(Profiles)
- 法人証明書(Certificates)
の2種類があります。
プロフィール(Profiles)
プロフィール(Profiles)は以下の2種類があり、会社の概要を安い手数料で確認することができます。
法人証明書(Certificates)とは異なり、ACRAの電子署名は付与されていませんが、個別番号のQRコードが付与されており、読み取ることでACRAのデータベースにアクセスすることができるため、一定の証明力を有します。
事業概要(Business Profile)
Business ProfileはBizfileで取得する書類の中で最も一般的な書類で、シンガポール法人の「登録番号、法人名、事業目的、登録日、株主、役員」などの情報が記載されています。
取得手数料は5.50シンガポールドルです。
日本の「登記情報」に最も近い書類ですが、登記情報とは違い、「株主」の記載がされていることが大きな違いです。
日本におけるシンガポール法人の証明に一般に使われており、シンガポール法人を発起人とする日本法人設立の際も、この「Business Profile」と宣誓供述書の提出で、公証役場での定款認証も基本的にクリアできます。
企業コンプライアンスと財務プロファイル(Corporate Compliance and Financial Profile)
Corporate Compliance and Financial Profile には基本的な会社情報に加えて、直近の貸借対照表など、法人の財務状況が記載されています。
取得手数料は50シンガポールドルです。
法人証明書(Certificates)
プロフィール(Profiles)は以下の4種類があり、法人に関する証明書として幅広く利用することができます。
事業概要(Business Profile)とは異なり、ACRAの電子署名は付与されており、Trust Barポータルから証明書の真実性を検証することができます。
一般的には2023年のBizfile改革により、Business Profileでも十分な証明力を持つようになり、取得手数料も割高なため、利用するケースはあまり多くないように感じます。
優良証明書
シンガポールで登記された会社が実際に存在していることを証明します。
Business Profileとは異なり、「商号、登録番号、設立日」などの基本的な情報しか記載されていません。
取得手数料は11シンガポールドルです。
会社設立証明書
担保登録証明書
合併確認証明書
会社設立証明書、担保登録証明書、合併確認証明書はそれぞれ個別の証明書になりますが、取得にあたってはBizfileへの会員登録が必要となります。日本においてはほとんど取得する必要性はありません。
司法書士からのアドバイス
Bizfileは英語のみのサービスですが、翻訳機能を活用し、ある程度慣れていれば日本の登記情報よりも取得が簡単だと感じる方も多いはずです。
弊所では、Bizfileを通じた登記簿の取得代行や、シンガポール法人のデューデリジェンス(調査)なども承っております。
シンガポール法人との取引の場面でお困りごとがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
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