小学生が社長になるには

商業登記

近年、起業家の低年齢化が進み、学生社長や高校生社長といった肩書を目にする機会が増えています。中には、小学生の女の子がイヤリングの特許を取得し、株式会社の「社長」になったという話題も。

今回は、「未成年者が株式会社の代表取締役になれるのか」というテーマについて、司法書士の視点からわかりやすく解説します。

未成年者は株式会社の代表取締役になることはできるか。

「社長」という言葉には様々な意味がありますが、ここでは法的に登記される「株式会社の代表取締役」になれるかどうかを、年齢別に整理していきます。

結論から言うと、未成年者であっても、株式会社の代表取締役になることは部分的に可能です。

ただし、年齢ごとに以下のような制限があります。

  • ①15歳以上~18歳未満 法定代理人の同意を得て、代表取締役に就任可能
  • ②10歳くらい~15歳未満 法定代理人の同意を得て、特殊な手続きを踏むことで可能
  • ③出生~7歳から10歳くらいまで 意思能力を有さない場合は不可

以下、それぞれの年齢ごとに詳しく解説していきます。

①15歳以上~18歳未満→ 法定代理人(親など)の同意があれば就任可能

株式会社の取締役になる、というのは、取締役になろうとするものと株式会社との間で、委任契約を締結する、という法的性質を持ちます。

この点、未成年者が契約(法律行為)をするには、その法定代理人の同意を得なければなりません(民法5条Ⅰ)。

このため、15歳以上の未成年者が代表取締役になろうとする場合は、法定代理人(両親等)の同意を得る必要があります。

②10歳くらい~15歳未満→ 通常は不可。ただし特殊な手法により可能な場合も

この年齢の場合、①と同様に法定代理人の同意が必要ですが、通常の手続きでは代表取締役に就任することはできません。

代表取締役の就任登記にあたっては、登記申請の際、代表取締役の印鑑証明書を提出するか、就任承諾書に法務局が認める形式の電子署名をする必要がありますが、日本においては印鑑証明書・電子証明書の発行は15歳以上でないとできないためです。

これにより、一般的には日本においては、15歳未満は代表取締役になることはできない、とされていますが、以下のような特殊な方法を取ることで、複数代表の形としてなら、15歳未満であっても代表取締役となることができます。

15歳未満が代表取締役になる方法

特殊な手法とは、取締役会設置会社の状態で15歳未満のものを取締役として選任し、その後に取締役会を廃止することです。
(参考:司法書士内藤卓のLEAGALBLOG 小学生が代表取締役になることは可能か

通常、取締役会設置会社でない株式会社では、代表取締役以外の取締役についても就任登記の際に印鑑証明書の添付が求められます(商業登記規則61条Ⅳ)。
このため、印鑑登録ができない15歳未満の者は取締役に就任することができません。

一方、取締役会設置会社では、取締役の就任登記の際に「本人確認証明書(住民票の写しや戸籍の附票)」による登記が可能(商業登記規則61条Ⅶ)であるため、15歳未満でも取締役に就任できます

さらに、取締役会設置会社が取締役会を廃止した場合には、新たに代表取締役を選定しない限り、各自代表の原則により、廃止時点の取締役全員が代表取締役となります。

このような手法を取ることで、15歳未満、たとえば小学生であっても、形式的には株式会社の代表取締役となることが可能です。

単独で代表取締役となることはできない

上記のような手段を講じれば、15歳未満の者であっても代表取締役に就任すること自体は可能です。
しかしながら、15歳未満の者を単独で代表取締役とすることは現行法上できません。

なぜなら、代表者の印鑑を法務局に届け出る、つまり会社実印を登録する際には印鑑証明書又は電子証明書の提供が必要であり(商業登記規則9条Ⅴ①)、15歳未満はこれらを取得することができないからです。

また、登記申請時には、登記申請書や委任状に代表取締役が会社実印で押印する必要があるため、
会社実印を登録できない者が単独で代表取締役となると、登記申請そのものができません。

したがって、15歳未満の者を代表取締役に就任させる場合には、必ず15歳以上の者と「複数代表」の形をとる必要があります。
この15歳以上の代表取締役が会社実印を登録し、実質的な登記手続きを行います。

なお、日本の会社法では「共同代表制」は廃止されており、複数の代表取締役がいる場合でも、各人が単独で会社を代表できます(会社法349条Ⅱ)。

ただし、15歳未満の代表取締役については、会社実印の届出ができず、代表取締役としての印鑑証明書も発行されないため、対外的な証明力は大きく劣ることになります。

※なお、ごく例外的な状況下において、15歳未満であっても会社実印の届出ができ得るケースが存在しますが、極めて稀で現実的ではないため、ここでは割愛します。

③出生~7歳から10歳くらいまで

この年齢においては、意思能力を持たない場合、そもそも取締役となることができません。

会社法上、取締役の要件としての年齢は規定されていませんが、前述のとおり、取締役になる、という行為は会社との間で委任契約を結ぶ法律行為です。

この点、法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効となります(民法3条の2)。

民法上、この何歳からこの意思能力を有するかの明文の規定はありませんが、通説では、おおよそ7~10歳くらいから意思能力を持つものとされています。

そのため、乳幼児や未就学児については、取締役になることは難しいでしょう。

未成年者が役員になることのデメリット

ここまで未成年者が代表取締役に就任することができなるか、実務的な論点から解説しましたが、未成年者が会社の役員になる場合、以下のようなデメリット・制約が存在します。

役員報酬が損金計上できない場合がある

未成年者に対して、実際の職務を遂行していないにもかかわらず、役員報酬だけを支給すると意図的な所得の分散と判断されることになり、役員報酬を損金に算入することができなくなるため注意が必要です。

司法書士からのアドバイス

未成年者でも一定の条件下で株式会社の代表取締役になることは可能ですが、印鑑証明や意思能力、税務上のリスクなど、実務的なハードルは非常に高いのが現実です。

十分な検討・対策無しで就任させると、後々大きな問題につながるおそれもあります。
(冒頭の小学生社長も、特許法律事務所が顧問についているようです)

未成年者の登記を検討される際は、まずは弊所までお気軽にご相談ください。
法的・実務的な注意点を詳しく説明の上、ご案内をさせていただきます。

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