株式会社と合同会社、どちらで登記するべき?

商業登記

スタートアップ・起業において、実際に事業を始めるにあたっては、「設立登記」が必須です。
会社を設立し、その会社を事業体としてビジネスを開始していくこととなりますが、このとき、設立する会社の種類は何が適切なのでしょうか。

今回は最も一般的な会社形態である「株式会社」と「合同会社」の違い、メリット・デメリットについて司法書士の視点から解説していきます。

「株式会社」と「合同会社」

現在、日本法における法人形態は株式会社を始め、合同会社、特例有限会社、一般社団法人、各種組合など、200以上にのぼります(士業法人や各種組合等を含む)。

この中で、スタートアップや起業にあたっての事業体として最もよく用いられるのが「株式会社」「合同会社」です。

この2つの形態が選ばれる理由は、この両者が「間接有限責任」制度を採用していることです。

「間接有限責任」とは、出資者(株主など)が負う責任の形態で、自らの出資額を限度としてのみ責任を負い、会社の債権者に対して自身が直接責任を追及されることはない、というものです。

わかりやすく言えば、たとえ会社が多額の借金を負ったとしても、それは会社の責任であり、原則として出資者個人の財産が差押えの対象となったりしない、ということです。

例外として、銀行融資の際の「経営者保証」や、会社法第423条の「役員等の株式会社に対する損害賠償責任」がありますが、こちらは別の記事で詳しく解説いたします。

株式会社と合同会社の違い

株式会社と合同会社の違いをまとめると、以下の表のようになります。

株式会社合同会社
設立費用約20万円〜30万円約6万円〜10万円
定款認証必要(公証役場での認証)不要
登記手数料15万円〜6万円〜
役員の任期最長10年任期なし(定めることも可)
決算公告義務必須(官報等での公告)原則不要
社会的信用度高いやや低い
資金調達方法株式発行による資金調達(IPOも可能)社員からの出資、融資、補助金等
代表取締役等住所非表示措置利用できる利用できない

株式会社と合同会社の大きな違いとして、

  • 「株式」と「持分」の違い

があります。

株式会社の出資者は出資の見返りとして「株式」を取得し、会社に対する議決権と配当を得る権利を持つ「株主」になります。

株主は自ら役員となって会社の経営をすることも可能ですが、外部から連れてきた専門家を社長にして、経営を丸投げすることもできます。

このように株主による会社の「所有」と、役員による「経営」が分業されていることを「所有と経営の分離」といいます。

一方、合同会社において、出資者は出資の見返りに「持分」を取得し「社員」となります。
合同会社の経営はこの「社員」が行わなければならず、株主会社のように外部の人間に任せることはできません。

そのため、株式会社のように株式を発行して、資金調達をすることはできません。

ただし、これらは大量の資金調達を行う際に初めて問題となるので、スモールビジネスにおいてはあまり影響はありません。

合同会社は「とにかく安い!!」

株式会社と合同会社のメリット・デメリット

株式会社と合同会社、それぞれのメリット・デメリットを上げるとすると、以下のようになります。

株式会社のメリット

  • 社会的信用度が高い
  • 株式や新株予約権発行による資金調達が可能
  • 代表取締役等住所非表示措置が利用できる

株式会社のデメリット

  • 設立費用が高い
  • 維持コストがかかる

合同会社のメリット

  • 設立費用が安い
  • 維持コストが安い

合同会社のデメリット

  • 社会的信用度がやや低い
  • 資金調達の幅が狭い上場できない
  • 代表取締役等住所非表示措置が利用できない

一言でまとめるとすれば、「合同会社はとにかくコストが安い!」これにつきます。

会社運営にかかるコストは

  • 設立時コスト
  • 維持コスト
  • 税金

の3つがありますが、税金については株式会社も合同会社も差はありません。

しかし、「設立時コスト」と「維持コスト」においては、合同会社のほうが圧倒的に安くすみます。

圧倒的設立コストの安さ

まず、会社設立の際、株式会社においては定款(会社のルールブック)を作成した後、公証役場の公証人に認証して貰う必要があります。

これを「定款認証」というのですが、なんと大体3~7万円ほど費用が発生します。

合同会社の場合、この定款認証は不要です。

また、設立登記を申請する際、登録免許税(手数料)を納める必要があります。

株式会社はこの登録免許税が最低15万円なのに対して、合同会社は最低6万円です。

まとめると、会社設立の際の実費が、株式会社は約20万円~に対して、合同会社は約6万円~となります。

維持コストの安さ

次に会社設立後、株式会社の場合は毎年、決算確定後に貸借対照表を公告する義務があります。
これを決算公告といいますが、官報に掲載する場合、掲載費用は約9万円です。

一方、合同会社は決算公告をする義務はありません

また、株式会社の役員には任期があり、最長で10年です。
そのため最低でも10年に1回は役員の変更登記を行わなければなりません。
この登記時の実費が1~3万円ほどかかります。

ちなみにこの役員変更登記を12年間ほったらかすと、休眠会社とみなされ、法務局の職権で会社が解散させられます。

合同会社では社員の任期は原則存在しないので、基本的に変更登記は不要です。

銀行口座開設・融資に影響がある?

よく合同会社のデメリットとして、「銀行の法人口座がつくれない」「銀行の融資が受けられない」というものを見かけますが、正確ではありません。

正しくは、「合同会社だろうと株式会社だろうと、事業実績がないとメガバンクでは口座が作れない・融資を受けられない」です。

大手メガバンクおいては、犯罪組織のマネーロンダリングや犯罪収益の移転に口座を利用されることを非常に恐れているため、会社の形態にかかわらず、事業実績や会社の実在性がハッキリしていないと、口座を作らせてもらえません。

一方、ネット銀行などであれば、株式会社・合同会社を問わず口座開設は容易な傾向があります。

銀行との取引において、会社形態が問題となるケースはそれほど多くありません。

合同会社は社長の住所が隠せない!

合同会社のデメリットの一つとして、最近開始された「代表取締役等住所非表示措置」の恩恵を受けられない、ということがあります。

代表取締役等住所非表示措置については以下の記事に詳しく記載していますが、ざっくりと説明すると、代表取締役の住所の一部を登記簿に公開しなくてすむ、という制度です。

この制度が利用できるのは現状、「株式会社のみ」とされているため、住所を世間に公開したくない起業家の方にとっては、合同会社を選択する際のデメリットとなり得るでしょう。

合同会社から株式会社への移行も可能

実は当初合同会社で会社を設立した後、法人格はそのままで株式会社に移行することも可能です。

これを「合同会社の組織変更」といいます。

組織変更にあたっては大きく「債権者保護手続」と「組織変更登記」の手続きを要しますが、必要な実費は約12万円ほどです。

会社設立の際の実費が、株式会社は約20万円~に対して、合同会社は約6万円~であることを考えると、組織変更の費用を加味しても合同会社のほうが実費負担は安くなりますね。
(司法書士の依頼報酬も含めると、総額では株式会社で当初から設立したほうが若干安くなります)

結局、どっちを選べば良いのか~司法書士からのアドバイス~

結論を申し上げると、「上場を目指している」「大規模資金調達を行いたい」「会社を大きくしたい」という方は株式会社が、

「知人のみでの経営」「スモールビジネス」を目指す方は合同会社が一般的に適しています。

もちろん、事業計画やチームメンバーなど、会社の方針によって考慮すべき事項は増えますし、株式会社の場合は設立当初から導入した方が良い制度がたくさんあります。

設立時の会社形態でお悩みの方は、まずはぜひマッスル司法書士事務所までご相談いただけますと幸いです。

起業家の方の特性に合わせて、最適な会社設計をさせていただきます。

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