不動産の売買などにより権利を移転する際には、ケースによって、行政機関への事前・事後の届出や許可申請が必要となることがあります。
たとえば、農地の売買はその代表例です。
不動産に関する法制度は近年、新たな法律の施行や改正が相次いでおり、手続きは複雑化の傾向にあります。
届出等を怠った場合、罰則が科されるケースや、そもそも取引自体が無効とされるおそれもあるため、関連法令を正しく理解し、的確なアドバイスを行うことは、司法書士の重要な役割といえます。
今回は、令和4年9月20日に施行された「重要土地等調査規制法」に基づき、特別注視区域内にある土地・建物の所有権等を移転する際に必要となる届出制度について、司法書士の視点から解説いたします。
重要土地等調査規制法とは
「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律(重要土地等調査規制法)」は、重要施設の周辺の区域内及び国境離島等の区域内にある土地等の利用状況の調査、規制、契約の届出等の措置について定めた法律で、令和4年9月20日に施行されました。
この法律で定める重要施設とは、以下のものを指します。
- 自衛隊及び米軍の施設
- 海上保安庁の施設
- 原子力関係施設及び空港など、政令で定める「生活関連施設」
重要土地等調査規制法により、内閣総理大臣は、これらの施設周辺や国境離島等の区域内の土地等について、必要に応じて調査・勧告・命令等を行うことができます。
特別注視区域内における土地等に関する所有権等の移転等の届出義務
上記、重要施設・国境離島等のうち、とく重要なものに関しては、内閣総理大臣は「特別注視区域」として指定することができます(重要土地等調査規制法12条Ⅰ)。
現在、特別注視区域として指定されている区域の一覧は、下記内閣府のHPから確認することができます。
(内閣府 特別注視区域の一覧:https://www.cao.go.jp/tochi-chosa/kuiki/tokubetsuchushikuiki.html)
この特別注視区域内にある一定面積以上の土地及び建物に関する所有権又はその取得を目的とする権利の移転又は設定をする契約を締結する場合には、契約の当事者(売主及び買主の双方)は、法令に定められた事項を内閣総理大臣に届け出る必要があります(重要土地等調査規制法13条Ⅰ・Ⅲ)。
具体的には、特別注視区域内にある土地・建物であって、その面積が200平方メートル以上のものが対象となり(法13条Ⅰ、施行令4条)、
- 当事者の氏名又は名称及び住所(法人にあっては、代表者の氏名)
- 土地等の所在及び面積
- 土地等に関する所有権等の種別及び内容
- 土地等の利用目的
- 譲受け予定者等の国籍等(法人にあっては、代表者が日本の国籍を有しない旨等)
- 土地等の利用の現況
- 契約予定日(事後届出の場合は、契約が成立した日)
を、契約締結前に、あらかじめ、内閣総理大臣に届け出なければなりません。
この届け出を怠り、以下のいずれかに該当する場合した、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金が課せられることがあります(法26条)。
- 届出をしないで契約をした場合(法第13条第1項)
- 契約をした日を含めて2週間以内に届出をしなかった場合(法第13条第3項)
- 虚偽の届出をした場合(法第13条第1項又は第3項)
また、土地等の利用目的によっては、内閣総理大臣は、土地等の利用者に対し、当該土地等を当該行為の用に供しないことその他必要な措置をとるべき旨を勧告・命令することができます(法9条)。
届出の対象とならないもの
相続、遺産分割、法人の合併、確定判決、形成権(予約完結権、買戻権)の行使等の契約に基づかない所有権の移転等については、届出の対象となりません。
また、以下の契約については、届出義務が免除されます(法13条Ⅰ、施行令6条、施行規則6条)。
- 公有水面埋立法第27条第1項の許可を要する契約
- 土地収用法第26条第1項の事業の認可の告示に係る事業の用に供される土地の所有権等の移転若しくは設定を内容とする契約等
- 農地法第3条第1項の許可を要する契約等
これらの契約については、それぞれの法律により、行政による事前審査が入るため、重要土地等調査規制法に基づく届け出は不要です。
また、
- 民事調停法による調停
- 民事訴訟法による和解
- 家事事件手続法による調停
- 滞納処分、強制執行又は担保権の実行としての競売(その例による競売を含む。)
による取得については、事前届出ではなく、土地等売買等契約を締結した日から起算して2週間以内の事後届出で良いとされています(法13条Ⅱ・Ⅲ、施行令7条)。
司法書士からのアドバイス
本法は安全保障上の観点から導入された制度であり、罰則を伴う重大な届出義務が課せられています。
しかしながら、施行から日が浅いこともあり、現場ではまだ十分に周知されていない印象もあります。
不動産売買に携わる司法書士・不動産業者としては、対象物件が特別注視区域に該当するか否かを事前に確認することが極めて重要です。
とくに、陸上自衛隊の施設周辺などは、郊外で開発が進む地域も多く、太陽光発電用地の売買の際などには注意が必要です。
当事務所では届出書の作成支援や、届出先である行政との事前調整などのサポートも実施可能ですので、特別注視区域に所在する物件の売買をご検討の方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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