代表取締役の住所を隠すには~代表取締役等住所非表示措置について~

商業登記

代表取締役の住所を隠すには~代表取締役等住所非表示措置について~

~登記簿に代表取締役の住所を載せないようにする方法 代表取締役等住所非表示措置について~

令和6年10月1日から、登記簿謄本や登記情報において、代表取締役の住所を一部表示しないようにすることができる、「代表取締役等住所非表示措置」制度がスタートしました。

本制度の概要や、申し出の方法、メリット・デメリットや注意点について、司法書士の視点から解説致します。

■ 代表取締役の住所登記義務について

株式会社の場合、代表取締役の氏名・住所は必ず登記しなければならず、登記簿に記載されます。
(画像は法務局HPより抜粋。以下同様)

登記簿謄本や登記情報は、全国の法務局やインターネットで誰でも取得することができるため、事実上、株式会社の代表取締役はその住所の公開を強制されています。

自宅の住所を公表することに対して、警戒感や不安を抱えていた経営者の方も少なくないのではないでしょうか。


■ 代表取締役等住所非表示措置の開始

代表取締役の住所の公開については、かねてより個人情報・プライバシーの保護の観点から、検討が進められていました。

令和4年9月1日には、配偶者からの暴力(DV)やストーカー行為の被害者などについては、登記簿に記載されている代表取締役の住所非表示を可能とする「DV被害者等である会社代表者等の住所の非表示措置」が開始されました。
https://houmukyoku.moj.go.jp/okayama/page000001_00197.html

そして令和6年10月1日より、パブリックコメントの公募等を経て、対象者を限定しない「代表取締役等住所非表示措置」制度がスタートしました。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00210.html

この制度を利用することにより、登記簿謄本や登記情報に関して、代表取締役の住所が一部秘匿される形となります。

具体的には、今まで丁目・番地・号まで詳細に記載されていた代表取締役の住所が、
「東京都新宿区」
「横浜市港北区」
「沖縄県宮古島市」
のように最小行政区画までの表示となり、以降の記載が非表示となります。

なお、代表取締役等住所非表示措置の申し出をした場合であっても、代表取締役の住所はすべて登記しなければならず、住所移転をした際も、変更登記を申請する義務があります。

代表取締役の住所は引き続き、法務局に対しては申請する必要がありますが、本制度の利用により、登記簿謄本や登記情報など、第三者の目に触れる情報においては、詳細が一部「非表示」になる、という制度です。


■ 申し出の方法

代表取締役等住所非表示措置を希望する場合、「代表取締役等住所非表示措置の申出」を株式会社の管轄の法務局に行う必要があります。

現状、この申し出については、住所の非表示を希望する代表取締役に関する登記と同時でないとすることができません。

つまり、代表取締役等住所非表示措置のみを単体で申し出ることはできず、代表取締役の住所移転登記や重任登記など、関連する登記が発生したタイミングで、登記とセットでないと申出することができないのです。

代表取締役等住所非表示措置の申出が可能な主な登記については以下のとおりです。
 ・設立登記(新設合併や新設分割、株式移転等による設立を含む)
 ・法務局の管轄外に移転する場合の本店移転登記
 ・非表示を希望する代表取締役等の住所変更登記
 ・非表示を希望する代表取締役等の就任・重任登記

申し出を行うにあたっては、通常の登記に必要な書類に加えて、以下の3点を用意する必要があります。

 1.株式会社の本店所在場所における実在性を証する書面
 2.代表取締役等の住所等を証する書面
 3.株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面

それぞれの書類の詳細について、以下詳しく解説していきます。

なお、申し出を希望する企業が「上場企業」の場合は、上記3点の書類はいずれも必要ありません。
上場企業が代表取締役等住所非表示措置の申出を行う場合は、
 「金融商品取引所に当該株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面」
を提出すれば足り、その他の書類を用意する必要はありません。

上場企業の場合は、有価証券報告書の提出やコーポレートガバナンス・コードの遵守など、非上場企業以上の義務を負っているため、条件が緩和されている形となります。

なお、「金融商品取引所に当該株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面」について、具体的には、東証上場会社情報サービスの当該企業の掲載ページを印刷したもの等、「当該株式会社の上場に係る情報が掲載された金融商品取引所のホームページの写し等」が該当します。


1.株式会社の本店所在場所における実在性を証する書面

この書面については、以下の2点のうち、いずれかの書類を用意する必要があります。

 Ⅰ.株式会社の登記簿上の本店あてに郵送した郵便物の配達証明書及び郵便物受領証

 Ⅱ.代表取締役等住所非表示措置の申出と併せて行う、登記の申請を受任した資格者代理人
  (司法書士又は弁護士)が作成した証明書

Ⅰ.の場合においては、以下の手順により株式会社の登記簿上の本店あてに郵送した郵便物の配達証明書及び郵便物受領証を準備する必要があります。

①郵便局で、株式会社の登記簿上の本店所在場所・商号に宛てて、配達証明付き郵便物を発送する
 例:)東京都千代田区麹町三丁目5番地4麹町インテリジェントビルB1-2階
    マッスル株式会社 宛て
(※送り先は登記簿謄本に記載された本店住所・商号と一言一句同じ記載とすることを推奨します)

②郵便発送時に、郵便局の窓口にて「郵便物受領証」が発行されるので保管する。

③株式会社の本店にて、配達証明付き郵便物を受領する。

④後日、配達担当郵便局より、送り元に「配達証明書」が返送されるので、保管する。

Ⅱ.の場合、登記の申請を受任した司法書士等が株式会社の本店の実在性を証明する書面を作成する事により、配達証明書や郵便物受領証の用意が不要となります。

当事務所においては、ご訪問や書類の郵送等による調査にて、依頼人様の本店の実在性を確認できる場合は、本店の実在性の証明書を作成させていただいております。

なお、バーチャルオフィス等をご利用されている株式会社様の場合は、転送サービス等を含めて、当事務所から依頼人様の本店に宛てて郵送した委任状等の書類の到着が確認ができる場合のみ、証明書を作成させていただいております。


2.代表取締役等の住所等を証する書面

この書面については、住所非表示措置を希望する代表取締役等の
・住民票の写し、戸籍の附票
・運転免許証やマイナンバーカードのコピーに、当該代表取締役等が原本と相違ない旨記載し、
 記名したもの
などを用意する必要があります。

基本的には、運転免許証の両面をコピーした紙に、「原本と相違ない。 〇〇(氏名)」と記載していただいたもので問題ありません。


3.株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面

この書面については、以下の3点のうち、いずれかの1つの書類を用意する必要があります。

 Ⅰ.設立時に公証役場で発行された「申告受理及び認証証明書」
  (※設立から2事業年度以内の会社に限る)

 Ⅱ.実質的支配者情報一覧(BOリスト)の保管及び写し交付申出書

 Ⅲ.司法書士又は司法書士法人が作成した本人確認証明書

 Ⅳ.実質的支配者の本人特定事項についての公証人による認証受けた宣誓供述書

Ⅱ.のBOリストの申し出にあたっては、株式会社の株式の25%を超える議決権を単独で保有している株主が存在しない場合は、利用することができないため、注意が必要です。


■ 代表取締役等住所非表示措置の注意点

代表取締役等の住所非表示措置の申し出を行うにあたっては、以下のような注意点があります。

手続きのタイミングは登記申請時に限られる

代表取締役等の住所が登記される場合、非表示措置を希望する場合は、その登記申請と同時に申出を行う必要があります
これに対し、非表示措置を希望しない旨(非表示措置の終了)の申出は、登記申請時に限られず、いつでも行うことができます

非表示措置の対象は株式会社に限定されている

非表示措置の対象となる会社は、株式会社(特例有限会社を除く)のみとされています。
そのため、合同会社・合名会社・合資会社などの他の会社形態や、一般社団法人・一般財団法人などの各種法人、投資事業有限責任組合、有限責任事業組合、限定責任信託等は対象外となります。

登記義務が免除されるわけではない

非表示措置が講じられている場合であっても、会社法に基づく登記義務が免除されるものではありません
したがって、代表取締役等の住所に変更が生じた際には、従来どおり登記申請が必要です

④ 過去の登記記録は非表示にならない

設立後、株式会社の変更登記を行った場合、以前の登記記録が削除・上書きされるわけではなく、古い記録については下線が引かれ、その下段に新しい登記記録が記載されます。

変更の登記を申請しても、これまでの変更の履歴は残る制度となっているのです。


この点、代表取締役等住所非表示措置を申し出た場合であっても、この下線が引かれた過去の登記記録は非表示の対象となりません。

そのため、住所変更を伴わない重任時などに非表示措置を行った場合、現在の住所は非表示となりますが、過去の記録からある程度、代表取締役の住所が推測できる余地が残ってしまいます。

代表取締役の住所非表示措置の申し出は、初めて代表取締役の住所が登記される、「設立時」や「就任時」、「住所移転時」に実施するのが最適と言えるでしょう。


■ 代表取締役等住所非表示措置のメリット・デメリット

メリットは何と言っても代表取締役の住所を非表示とすることで、プライバシーが守られ、安心して経営を行うことができる点です。

当事務所代表の長谷川は本制度の開始当時から、合計で数十社の非表示措置のお手伝いをさせていただいておりますが、今のところ、これといったデメリットの声は伺ったことがありません。

ただし、本店がバーチャルオフィスを利用されているスタートアップ企業様などにおいて、代表取締役等の住所非表示措置を利用されている場合、登記簿上から得られる確かな情報が少なくなりますので、融資の際に金融機関から一定の追加書類を求められる可能性などはありますので、注意が必要です。


■ 司法書士のアドバイス

代表取締役等住所非表示措置は制度開始から日が浅く、インターネット上の情報も乏しい状況です。

また、配達証明の準備や、実質的支配者の特定など、手続きも非常に煩雑なものとなっております。

当事務所代表は制度黎明期より、非表示措置導入を扱っており、業界屈指の経験を有しております。また、これまで数多くの株式会社の非表示措置に携わってきておりますので、安心してご相談ください。

当制度のご利用を希望される場合は、まずはお気軽にご相談ください。

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