一般に「法人」と聞くと、「株式会社」や「合同会社」、「一般社団法人」などを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
しかし、2025年現在、日本法上の法人の種類は200以上にのぼります(士業法人や各種組合等を含む)。
医療法人や士業法人、組合などは、それぞれ個別の法律により設立・運営が定められており、株式会社と同じ感覚で管理を行おうとすると、思わぬトラブルにつながることもあります。
今回はその中でも、「医療法人の役員任期の特殊性」に焦点を当て、司法書士の視点から注意点と対応策をご紹介します。
医療法人の任期の特殊性
まず、株式会社の取締役の任期は、会社法において以下のように定められています。
会社法 第332条第1項
「取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」
一方、医療法人については、以下のように規定されています。
医療法 第46条の5 第9項
「役員の任期は、2年を超えることはできない。ただし、再任を妨げない。」
つまり、株式会社は“最長2事業年度+定時株主総会の終結時”まで任期があるのに対し、医療法人では“就任日からきっかり2年”で任期満了とされており、同じ「2年」という表現でも、実務上の取り扱いに大きな違いがあります。
任期管理に注意が必要なケース
例えば、12月末日を事業年度末日とする、任期2年の株式会社・医療法人で、それぞれ10月1日に就任した取締役Aと理事Bについて任期を比較してみましょう。
株式会社マッスル 取締役A の場合
2025年 10月1日 取締役就任
2025年 12月31日 1期目の事業年度末日
2026年 3月31日 1期目の定時株主総会
2026年 12月31日 2期目の事業年度末日
2027年 3月31日 2期目の定時株主総会 ⇐ 任期満了
マッスル医療法人社団 理事B の場合
2025年 10月1日 理事就任
2025年 12月31日 1期目の事業年度末日
2026年 3月31日 1期目の定時社員総会
2026年 12月31日 2期目の事業年度末日
2027年 3月31日 2期目の定時社員総会
2027年 10月1日 就任から2年経過(初日不算入)する日 ⇐ 任期満了
このように、事業年度の中途で就任した役員の場合、株式会社の取締役と医療法人の理事とでは任期満了のタイミングが大きく異なる事がわかるかと思います。
この医療法人のきっかり「2年」の任期は簡単に見えて実はかなり厄介です。
上記の例でいうと、理事Bを株式会社の取締役と同じように、2期目の定時社員総会で他の理事と合わせて重任させることはできません。
なぜなら2期目の定時社員総会である「3月31日」時点ではまだ理事Bの任期は満了していないからです。
この場合、2年おきに理事Bのみ、10月に社員総会を別個開催して再任させなければなりません。
対策と注意点
上記のような取り扱いを行うと、役員の任期管理の手間が大幅に増加してしまいます。
このような事態を生じさせないためには、事業年度の中途で就任した理事については、任期の調整を行う必要があります。
例えば、理事Bを選任する際に、「なお、理事Bの任期は20XX年度定時社員総会の終結の時までとする」などの2年を超えない範囲での制約を設けることで、改選のタイミングを他の理事と揃えることができます。
一方で、医療法人は、役員に変更があったときは、遅滞なく都道府県知事に届け出なければなりません(医療法施行令5条の12・13)。
したがって、任期の調整や就任日・満了日の設定に関しては、事前に所轄の行政庁と相談しておくことが重要です。
司法書士からのアドバイス
医療法人やNPO法人など、一般法人と異なる法令に基づいて運営される法人については、役員任期や登記、行政への届出など、注意すべきポイントが数多く存在します。
弊所では、以下のようなご相談に対応しています:
- 医療法人やNPO法人の役員任期・登記事項の確認
- 任期調整のための理事選任議事録の作成
- 行政対応を見越した就任時期・届出スケジュールのご提案
- 定款変更(任期や役員構成)に関するリーガルチェック
- 医療法人設立時の手続き・運営支援
「このケース、自法人にも当てはまるかも?」と思われた方は、ぜひ一度弊所までご相談ください。
法人の種類に応じた正確な運営管理こそ、トラブルを未然に防ぐ第一歩です。
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