夫婦間契約〜民法改正による婚「後」契約の可用性について〜

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夫婦間契約:2024年民法改正に伴う婚「後」契約の可能性について

結婚生活のルールや、万が一の離婚時に備えた取り決めを、契約書の形で作成する、婚前契約(プレナップ)がアメリカでの流行を経て、日本でも芸能人や富裕層を中心に広まりつつあります。

現在、2024年に成立した民法改正により、この「夫婦間の契約」を取り巻く環境は劇的に変わろうとしています。

本記事では、この民法改正のポイントと、これにより可能となる婚「後」契約の新たな可能性、そして法改正後も、なお注意すべき点について、司法書士の視点から解説します。


法改正前の常識:なぜ「婚前契約」が主流だったのか

これまで、夫婦間で契約を結ぶ際には、婚姻届を提出する前に締結する必要がありました。

その理由は、民法第754条(夫婦間の契約の取消権)にありました。

(旧民法第754条) 夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。

この規定により、婚姻届を提出したに夫婦間で契約を結んだ場合、夫婦の一方からいつでも契約を一方的に取り消すことができ、法的拘束力が極めて不安定でした。
そのため、夫婦関係における重要な約束事を契約として締結したい場合は、「婚前」に契約を締結する必要がありました。

民法改正による「婚後契約」の可能性

2024年5月に成立した「民法等の一部を改正する法律」(遅くとも2026年5月までに施行予定)により、この民法第754条は削除されることが決定しました。

この改正が施行された後は、夫婦間の契約も、通常の契約と同様に一方的な取消しはできなくなり、原則として安定した法的拘束力を持つことになります。

これは、婚姻届提出後であっても、夫婦間で取り決めた家事分担、教育方針、生活費の管理方法などの契約(いわば婚「後」契約)が、法的に有効な契約として機能することを意味します。

改正がもたらす実務上の意義

結婚前の蜜月期間は、離婚などの将来の苦難に備えた契約を結ぶには心情的にハードルが高いものです。今回の法改正により、夫婦生活が落ち着き、二人でじっくりと将来を話し合う段階に至ってから、柔軟かつ安定的な契約を締結する道が開かれたという点で、実務上の効果は非常に大きいと言えます。

注意点:財産分与に関する取り決めは「婚姻前」が必須

ただし、今回の民法第754条の削除をもって、婚姻後の契約で「夫婦の法律関係」の全てを取り決めることができるようになるわけではありません。

離婚時の財産分与の割合など、民法が定める法定財産制とは異なる特別な財産管理の取り決め(夫婦財産契約)を設ける場合は、引き続き、婚姻届提出前に契約を締結する必要があります。

(民法第755条:夫婦の財産関係) 夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。

さらに、この夫婦財産契約により、離婚時の財産分与対策などのため、民法上の原則異なる財産認定、つまり夫婦別財産制を定める別段の合意を第三者に対抗するためには、婚姻届提出前までにこれを登記しなければなりません(民法第756条)。

つまり、財産分与に関する規定を盛り込むには、依然として「婚姻届提出前の締結」と万全を期すのであれば「登記をする」というハードルが残ることに留意が必要です。

契約の限界:公序良俗違反による無効リスク

婚後契約においても、通常の契約と同様に、公序良俗(公の秩序又は善良の風俗)に反する内容は無効となります。

例えば、判例上、婚姻制度そのものを否定したり、社会通念を逸脱したりするような以下の条項は、公序良俗違反として無効となる可能性が高いです。

  • 婚姻の自由を著しく束縛する条項: 「夫婦の一方から離婚を切り出した場合は、他方は無条件で離婚を承諾する」など。
  • 不当な愛人契約など: 「性交渉の対価として、定期的に金銭を支払う」など。

昨今、メディアで話題になるオープンマリッジ(配偶者以外との性交渉を認めること)などの契約については、判例がないものの、公序良俗に違反し無効となる可能性が十分にあるため、極めて慎重な判断が必要です。

まとめ

2024年の民法改正の施行により、「婚後契約」は法的安定性を獲得し、夫婦関係の柔軟な設計を可能にする大きな一歩となります。

一方で、離婚時の財産分与に関する重要な取り決め(夫婦財産契約)は、依然として婚姻前の締結と登記が必須です。

マッスル司法書士事務所では、お客様のライフステージに合わせた婚前契約婚後契約(改正法対応)、そして夫婦別財産制の登記など、夫婦間契約に関するご相談を承っております。まずはお気軽にご相談ください。

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