株式会社の代表取締役の住所を登記簿上で一部秘匿できる制度、「代表取締役等住所非表示措置」制度が令和6年10月に開始してから、早いもので1年が過ぎました。
今回は、法務局が公開している代表取締役等住所非表示措置の申出件数をもとに、あらためて本制度のメリット・デメリットを復習しましょう。
制度利用の現状と件数
まず、法務局が公表している「代表取締役等住所非表示措置制度」(以下、非表示措置)の実施件数のまとめを確認します。

出典:法務局HP「代表取締役等住所非表示措置の申出による実施件数(月報)」
令和7年9月末時点で、非表示措置を実施している数は合計で1万3,996件です。
日本の株式会社の数は令和7年時点でおおよそ250万社と言われています。この数字から見ると、まだまだ制度の利用率は高いとは言えませんが、制度開始後1年で約1万4千件弱の申出があったという事実は、多くの企業がこの制度に関心を寄せていることを示しています。
また、非表示措置を申し出ている会社のうち、その内訳を見てみると、
- 設立登記と同時に申出を行った件数:2,831件
- 設立登記以外の登記(代表取締役の住所変更や本店移転登記、重任登記など)と合わせて行われた件数:1万1,165件
となっています。ここから鑑みるに、設立後であっても、代表取締役のプライバシー保護のために、多くの会社が積極的にこの制度を利用していることが伺えます。
実際、会社の登記簿謄本は誰でも確認できますが、この制度を利用している著名なケースとしては、例えば三菱UFJ銀行の半沢頭取もこの制度を利用して住所を非表示にしています。(有名ドラマ『半沢直樹』の主人公と苗字が同一であることは、原作の筆者が同行に在籍していた時の同期が半沢頭取だったからと言われています。)
私、司法書士長谷川も、本制度開始後から数十件の非表示措置の申出を行っており、実務を通じてそのニーズの高さを実感しています。
この制度のメリットとデメリット
ここで改めて、この制度の最も重要な点であるメリットとデメリットを確認していきましょう。
メリット:重要なプライバシー保護
この制度の最大のメリットは、何と言っても代表取締役の住所が一部登記簿に記載されなくなることです。
具体的には、最小行政区画(東京で言えば「中央区」など)より後の、「何々町何々番地」といった詳細な住所が登記簿に掲載されなくなります。
この制度自体、ベンチャー企業の社長や外国出資者等によるロビー活動の成果により開始されたと言われていますが、まさにこのプライバシーに配慮した措置が、この制度の最も重要なメリットと言えます。
デメリット:金融機関との取引への影響
次にデメリットですが、法務局が回答している懸念として、銀行との取引、例えば法人口座の開設などにあたって、非表示措置を利用していると審査が通りづらくなったり、必要書類が増えたりするといった点が挙げられています。
しかし、これは私の肌感覚ですが、現時点において、このデメリットはあまり現実には気にするほどのものではないのではないかと考えています。
当事務所でも多くの非表示措置、さらに言えば設立時からの非表示措置を実施させていただいておりますが、率直に申し上げると、昨今、銀行のコンプライアンスや反社対策は年々厳しくなっており、特にメガバンクにおいては、コンサル業やインターネット業といった新興会社では、非表示措置を実施していようがいまいが、口座開設のハードルは相当高いというのが現実です。
逆に言えば、先日、代表取締役住所非表示措置を実施した会社であっても、PayPay銀行やGMOあおぞらネット銀行といったネットバンキングでは、特に何の指摘をされることもなく、口座の開設ができたというようなお声もいただいております。
したがって、これまで通り、非表示措置の実施の有無に関わらず、新設したばかりの株式会社においては、まずはネットバンキングで法人口座を開設し、その後、経営実績を積んでからメガバンクでの口座を開設するといった流れになるところには変わりはないでしょう。
より詳細なメリット・デメリットや、手続きの方法については、以下の記事もご参照ください。
今後の展望と当事務所のサポート
本制度は開始から間もないこともあり、まだまだ使いづらい点が多いようにも感じます。今後この制度をさらに使いやすくするよう、司法書士としても働きかけを行っていきたいところです。
当事務所では、代表取締役等住所非表示措置の申出に制度開始時点から関与しており、業界屈指のノウハウを蓄えております。
本制度の利用を希望される会社様は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。



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